「ブクブクできますか」が通じない。子どもでも分かる言葉が、いちばん難しい

「ポイして」「ゴロゴロする」「ブクブクする」。 私たち日本人は、小さい頃からこういう言葉で育ってきました。だから、 子どもでも分かる、いちばんやさしい日本語だと思っています。 ところが、日本語を外国語として学んできた人にとっては、 いちばん意味の分からない言葉のひとつです。

介護の現場で

「ブクブクできますか」

何ができるのか、分かりません。

私たちには自明に思えますが、 「ブクブク」という音そのものには、意味がありません。 音と動作の結びつきを、体験として持っているかどうかだけの話です。 日本で育っていなければ、その結びつきは持っていません。

「うがいをしてください」でも足りません

では「うがいをしてください」と言えば通じるかというと、そうでもありません。

うがいには2種類あるからです。

言い方何をするか
ガラガラうがい上を向いて、のどで音を立てる
ブクブクうがい下を向いて、口の中だけで動かす

いま伝えたいのはブクブクうがいのほうで、 それは具体的にこうする——というところまで分かっていないと、指示になりません。

介護の現場では、この違いが大事な場面があります。 それでも、伝わるのは「うがい」という言葉だけ、ということが起こります。

そして、2つのことが起きます

1. 「ブクブクは何ですか」と聞かれる

これはまだいいほうです。分からないと言えているからです。

2. 「うがいをすれば、何でもいいんでしょう」と聞き飛ばす

こちらのほうが多く、そして厄介です。 分かる言葉だけをつなぎ合わせて、本人の中で指示が完成してしまいます。 「うがい」は分かったので、うがいをする。ただし、こちらが求めた形ではない。

この「聞き飛ばし」については、 N4に受かったのに、現場で指示が通じない理由 で詳しく書いています。オノマトペは、それがいちばん起きやすい言葉です。

同じ「ブクブク」が、別のことを指します

ここが、いちばん難しいところです。

別の場面で

「ブクブクできてきた」

これは、うがいの話ではありません。 口の周りに唾が出てきた、という意味で使われていました。

日本人は、この2つを違う言葉だと思っていません。 音から情景が浮かぶので、区別する必要がないからです。

でも、学んで覚えた側からすると、こうなります。

結局、どうしていいか分からないという話になります。

今日からできること

ひとつだけです。

オノマトペを使わずに、動作で言う。
いつもの言い方動作で言うと
ブクブクできますか口に水を入れて、口を動かして、出してください
ゴロゴロしています横になって休んでいます
ポイしてくださいごみ箱に入れてください

長くなりますが、長いほうが通じます。

そして、いちばん早いのはやって見せることです。 オノマトペは動作と結びついた言葉なので、動作を見せれば、言葉もいっしょに入ります。 一度見せてしまえば、次からは「ブクブク」で通じるようになります。

気づきにくいのが、いちばんの問題です

方言なら、まだ気づけます。「これは方言かもしれない」と思えるからです。

オノマトペは違います。標準語ですし、子どもでも使います。 だから、伝えている側は難しいことを言っている自覚がありません。 「こんな簡単なことが、なぜ通じないのか」となってしまう。

通じなかったのは、やさしく言ったつもりの言葉のほうだった——ということが、実際にあります。

この記事を書いた人

にほんご BRIDGE 講師

登録日本語教員(国家資格)。大学の非常勤講師として日本語を教えるかたわら、 日本で働く外国人向けの日本語研修を担当しています。入国後講習の現場にも立ってきました。

教室で実際に起きていることをもとに、受入れ企業のご担当者に向けて書いています。

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