「あかん」が通じない。配属先の方言は、誰も教えていません

入国後講習を終えて、関西の介護施設に配属された技能実習生の話です。 配属されてすぐ、聞いたことのない言葉に出会いました。 そして、その言葉は危険を知らせるときにも使われる言葉でした。

関西の介護施設で

利用者さんが到着したので、車椅子で中に入ろうとした。
すると、「あかん、いかれへん」と何度も言われた。

その日のオンライン授業で、本人が話してくれました。

雰囲気から、否定されていることは分かった。 でも、2つの言葉のどちらも分からなかった。 そう、がっかりした様子でした。

なぜ、習っていないのか

日本に来てすぐ、技能実習生は入国後講習を受けます。 この方が講習を受けたのは、関東の地方都市でした。

講習は1か月です。学ぶことはたくさんあるので、あっという間に終わります。

そして、環境は必ずしも恵まれていません。 私が担当したときは、1クラスに40人、50人ということもありました。 場合によっては80人というところもあると聞きます。

その人数では、きめ細かい指導は難しくなります。 配属先ごとの方言を取り上げる時間は、まずありません。

しかも講習を受けた地域は、そこそこ標準的な日本語を話す人が多い土地でした。 1か月、標準語の中で過ごしてから、関西に行く。 そこで初めて、聞いたことのない言葉に出会うことになります。

もうひとつ、お伝えしておきたいことがあります。 この時点で、テストができる人でも、実際のコミュニケーションは難しい人が多いのが実情です。 試験の点数と、現場で通じることは、別の話になります。

「あかん」は、危険を知らせる言葉でもあります

ここが、いちばんお伝えしたいところです。

「あかん」は、日本人にとっては有名な関西弁のひとつかもしれません。 ただ、私は日本語のテキストに出てきたのを見たことがありません。 当たり前かもしれませんが、標準語ではないからです。

でも、関西では日々使われている言葉です。そして——

意思疎通に、すごく必要な言葉のひとつです。

今回は、車椅子が通れないという話でした。 ですが、もし本当に危ないことが起きていたとしたら、どうでしょうか。 「あかん」が通じないというのは、そういうことでもあります。

これは関西だけの話ではありません

私は今は関東に住んでいますが、関西弁のネイティブです。 だから「あかん」の話をしていますが、同じことは、どの土地でも起きています。

群馬にも、群馬の言い方があります。 教科書には載っていません。 そして、そこで働く人は、その言い方で指示を受けます。

今日からできること

ひとつだけです。

現場で実際に使っている言い方を、10語だけ書き出す。

標準語ではどう言うかを、横に並べてください。それだけで渡せます。

現場で使う言い方標準語ではどんなとき
あかんだめ/いけない危険を知らせる/止める/断る
いかれへん行けないできないことを伝える
やめときやめたほうがいい止める/助言する

特に「危ない」と伝えるときの言い方は、最初に共有してください。 そこだけは、通じないと事故につながります。

書き出すのは、現場の方にしかできません。 毎日使っているので、自分たちでは方言だと気づいていないことも多いからです。 「これ、標準語じゃないかも」と思ったものを並べるだけで構いません。

教えられたら、よかった

がっかりした様子で話してくれたとき、こう思いました。

そういうことが教えられたら、よかったな。

1か月の講習で、配属先の方言まで扱うのは難しい。それは事実です。 ただ、配属されたあとなら、間に合います。 現場の言葉は数が限られているので、覚えれば終わります。

このあと、オノマトペ(「ブクブク」「ポキッ」など)についても書く予定です。 これも、教科書には出てこないのに、現場では毎日使われている言葉です。

この記事を書いた人

にほんご BRIDGE 講師

登録日本語教員(国家資格)。大学の非常勤講師として日本語を教えるかたわら、 日本で働く外国人向けの日本語研修を担当しています。入国後講習の現場にも立ってきました。

教室で実際に起きていることをもとに、受入れ企業のご担当者に向けて書いています。

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